福岡高等裁判所 昭和26年(ラ)40号 決定
一、原決定中別紙目録<省略>記載の第二、第三の不動産に関する部分を取消し、これを原裁判所に差戻す。
二、抗告人のその余の抗告はこれを棄却する。
二、事 実
(一) 抗告人の主張。
本件競売の基本たる抵当債権のうち、元金五万円は、昭和二十六年五月二十日弁済により消滅し、利息債権だけが残存するに過ぎないのに原裁判所が同年八月十四日の競落期日に、本件不動産全部の競落を許したのは違法であるから、原決定を取消し、相当の裁判を求める。
(二) 相手方の主張。
相手方は抗告人に対し、(イ)昭和二十四年四月二十二日金三万円、(ロ)同年五月九日金四万円、(ハ)同年五月二十日金四万円、(ニ)同年六月三日金三万円、合計金十四万円を貸付けたところ、この債権に対し抗告人は、昭和二十四年五月中金三千円、同年十月中金三万円を弁済したので、相手方はこれを右債権の利息に充当した。しかるに抗告人はその後の元利金を支払わないので、請求した結果、別紙目録記載の不動産に対し、債権額金十四万円の抵当権を設定し、これが登記をなすことを約したので、相手方は、抗告人にその登記手続方を一任したところ、抗告人は登録税が高額に達することを理由として、相手方に無断で、債権額金五万円なる本件競売の基本たる抵当権設定登記を経由した。
抗告人主張のように本件競売手続進行中金五万円を抗告人から受領したことは認めるが、同金員は、競売期日を一時延期するため右金十四万円の利息及び元金の一部として受領したもので、登記済みの抵当債権金五万円のみに弁済されたものではない。従つて、抗告人の主張は理由がない。
(三) 双方の証拠<省略>
三、理 由
競売法第三十二条民事訴訟法第六百八十二条第三項、第六百七十四条、第六百七十二条により職権をもつて調査するに、本件記録によれば、原裁判所は、最初本件不動産の競売期日を、昭和二十六年五月二十六日午前十時に、同不動産の所在地である日島村役場に開く旨公告するにあたり、原裁判所の掲示板には、適法に同年同月十一日掲示して公告をしたけれども、日島村は右同月十二日同村掲示板に掲示して公告をなしたことは、記録編綴の同村長の通知書及び回答書により明らかである。しかして、民事訴訟法第六百五十九条第一項の「競売期日は公告の日より少くとも十四日の後たるべし」との規定は、公告の日と競売期日との間に十四日の期間の存することを必要とする法意であるから、右公告は同条項の規定に違反するをもつて、執行裁判所は前示競売期日に競売を実施せしめることはできず(同法第六百七十二条第六号)、更に適法な公告を経て、執行吏に競売をなさしむべきであつたのにもかかわらず、原執行裁判所は右五月二十六日に競売を実施させ、執行吏は許すべき競売価額の申出がないため、競売期日を終えたこと、同年七月六日午前十時日島村役場において、競売期日を開く旨の公告をなすにあたり、別紙目録中第一不動産(以下第一不動産と称する)については、鑑定人の評価額をもつて、最低競売価額となしたるも、同第二、第三不動産については鑑定人の評価額をもつて、最低競売価額とすることなく、適法な公告に基く初回の期日であるのにかかわらず、新競売期日の場合に適用すべき民事訴訟法第六百七十条に従い、鑑定人の評価額を低減した額をもつて最低競売価額とする違法な公告をなしたこと、しかるに右七月六日の競売期日においても亦許すべき競買申出人がないため、同年八月七日午前十時更に日島村役場において、競売期日を開く旨の公告をなしたのであるが、この公告をなすにあたり、第一ないし第三不動産を通じ、最低競売価額として、右七月六日の競売期日における最低競売価額を低減したる額をもつて、最低競売価額と定めて公告をなし、執行吏は右競売期日に天木甚五郎を最高価競買人として競売期日を閉じたこと、の各事実を認むることができる。
以上の事実によれば、第一不動産に関する限り、天木甚五郎を最高価競買人とする競売手続には違法の点はないけれども、第二、第三不動産については、後の二回の競売において、二回とも適法な最低競売価額についての公告がなかつたと云わねばならない。蓋しせり上競売を採るわが国の競売法が、鑑定人の評価額をもつて、最低競売価額と定め、且つ所定の公告を要求する所以は、可及的高価に競売の目的たる不動産を競売し、債務者及び競売代金を受取るべき債権者の利益を図らんとするのであるから、競売手続という一連の過程において、不適法なる公告の介在し、あるいは、違法なる額を最低競売価額とする公告に依拠して競売がなされると、右のような違法、不適法な事項がなければ、より高価に競売されたであろう可能性を奪う結果となるから、右一連の手続は総て不適法として、民事訴訟法第六百七十四条の適用を受くるものと解せねばならない。(大審院昭和七年(ク)第八九号同年四月二十三日決定参照)
従つて、第二、第三の不動産に関する限り、原裁判所が競落を許す決定を言渡したのは違法であるから、取消(同法六百八十三条の廃棄)を免れない。
次に、仮りに抗告人主張のように、金五万円が本件抵当債権五万円の元金に弁済されたとしても、記録によれば、福江税務署の交付要求にかかる所得税等金千三百六十二円の外、右五万円に対する弁済当日までの利息金三千六十八円四十九銭及び競売費用が残存する訳であり、当裁判所は本件三筆の不動産中価格その他の点を参酌し、右各債権に充つるためには、第一不動産を競売するを適当と認めるから、同不動産の競落を許した原決定は相当で、この点の抗告は理由がない。
しかして、昭和二十六年五月二十日弁済のあつた金五万円は、如何なる債権に充当されたか、当事者間争があり、相手方主張のように、金十四万円の元利金の一部に充当されたとすれば、第二、第三の不動産を競売に附する必要があるところ、これを決するには、なお証拠調をなす要があるから、この部分はこれを原裁判所に差戻すこととする。
よつて、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第三百八十九条に従い主文の通り決定する。
(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)